インターネットやSNS、書店などで目にする機会が増えたHSP。
HSPに関する記事や本を読んで、「もしかしたら私ってHSPかも…」「自分がHSPかどうか診断してもらいたい」と思った方は多いかもしれません。
この記事ではHSPの起源からHSPの本質について分かりやすくまとめていきます。
前置き
HSPに関する記事や本を読んで、「もしかしたら私ってHSPかも…」と思った方は多いかもしれません。
実は私もその一人。
私は昔から自分の中には複数の人がいるような感覚があり、自分で自分のことがよく分からないと思っていました。
そんな時に出会ったのがトレイシー・クーパー著「傷つきやすいのに刺激を求める人たち」です。
気になる方はこちらをチェック!
まるで自分の解説本かのような感覚を覚え、初めて自分のことが理解できたように感じました。
気になったことは物事の背景や仕組みから知りたい性分の私は、HSPについてより深く知りたいと思うようになりHSP関連の記事や本、論文などを読み漁る日々が続きました。
しかし詳しく知ろうとすればするほど、どうしても専門的な言葉とぶつかります。
それらをできるだけ分かりやすく解釈してまとめていきます。
HSPとは
HSPは「生まれつき刺激を感じやすい人」です。
『Highly Sensitive Person』の頭文字をとってHSP(エイチ・エス・ピー)と呼ばれています。
『Sensitive(センシティブ)』には、敏感な、繊細な、感じやすい、傷つきやすいといった意味があるので、本や記事によって使われている言葉が違っています。
しかし、HSPを提唱したエレイン・N・アーロン博士の日本語版サイトには英語の『Highly Sensitive』にぴったり当てはまる日本語はないとされています。
アーロン博士も文脈によって表現を変えており、アーロン博士の和訳書や日本語版サイトでは文脈に合った翻訳がなされています。
ちなみに、日本語の『敏感』と『繊細』はニュアンスが少し違うように感じたので言葉の意味を調べてみました。
私は繊細より敏感・感じやすいの方がしっくりくるのでこの表現を使っています
HSPのはじまり
HSPはアメリカのユング派の心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です。
1996年にアーロン博士が出版した自己啓発本の中で初めてHSPという言葉が用いられました。
翌年1997年にはアメリカ心理学会が発行する月刊科学雑誌(Journal of Personality and Social Psychology)にて夫のアーサー・アーロン博士とともに論文を発表しました。
夫アーサー・アーロンも心理学者で社会心理学者ドナルド・ダットンとともに『吊り橋効果』を提唱した人物です。
恐怖や興奮、運動などによる心拍数の上昇(ドキドキ)が、その時一緒にいる人や出会った人に対しての恋愛感情によるときめきだと勘違いする心理現象
日本では2000年に冨田香里さんにより翻訳された『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。』が出版されました。
2020年8月には刊行25周年を記念した改訂版『敏感すぎる私の活かし方』も発行されています。
HSPの診断基準
HSPに診断基準はありません。
なぜならHSPは病気ではなく生まれ持った気質だからです。
動物に生まれつき備わっている刺激への反応の傾向(行動特性)
生まれ持った気質と環境によって人格が形成されていくと考えられている
アーロン博士の自己啓発本やサイトにはHSPセルフテストが掲載されていますが、診断を意図したものではないとされています。
また、セルフテストの質問に当てはまる項目が少なくてもその度合いが極端に強ければHSPかもしれないとアーロン博士は述べています。
この「極端に強ければ」の明確なラインは示されていません。
HSPセルフテストはHSPの傾向があるかどうかを知るための1つのツールとして参考にするのが良さそうです。
またHSPの特徴を簡潔に知りたい方にもぴったりなので、どんな質問項目があるのか一度確認してみるのがおすすめです。
また、インターネットやSNSで検索するとアーロン博士のHSPセルフテスト以外に『HSP診断』や『HSPあるある』などが多数出てきます。
これらも同様に当てはまったからといってHSPと診断できるものではありません。
それらの中にはHSPに関係のない内容が含まれている場合があるため注意が必要です。
HSPの特徴
HSPについて簡潔に知りたい方はアーロン博士のHSPセルフテストがおすすめですが、より具体的に知りたい方は感覚処理感受性(SPS)の特徴である『DOES(ダス)』を理解する必要があります。
感覚処理感受性とは
私たちの言動は自分の意志だけでなく、特定の遺伝子や環境因子からの影響を強く受けて無意識に選択しています。
そして複数のパーソナリティ特性によって「人柄」や「その人らしさ」が形成されていると考えられています。
パーソナリティ特性について様々な研究がなされている一方で未だ明確な数は分かっていませんが、アメリカの心理学者ゴードン・オールポートは4000種以上もの特性が存在すると提唱しています。
感覚処理感受性(SPS)はアーロン博士が提唱した刺激に対する敏感さを表すパーソナリティ特性で、HSPにおいて顕著にみられます。
感覚処理感受性は全人口の15~20%に見られる特性で、4つの特徴『DOES(ダス)』から成り立っています。
DOESとは
感覚処理感受性の4つの特徴の頭文字をとってDOES(ダス)と呼んでいます。
『D』:Depth of processing
『O』:Overstimulation
『E』:Emotional reactivity and high empathy
『S』:Sensitivity to subtleties
感覚処理感受性は4つのパーソナリティ特性(DOES)の集合体なので、HSPは全てに当てはまるということになります。
D:認知的処理の深さ
あらゆる情報を駆使してじっくり深く考え情報を処理することです。
周りの状況や変化など外部からの情報だけでなく、自分の心の声や感覚、全ての経験を徹底して認知的に処理しようとします。
そのため、HSPは考え方が複雑になったり、一を聞いて十のことを想像して考えられると言われたりします。
O:刺激に反応する強さ
音、匂い、光、対人関係などあらゆる刺激に対して過剰に反応してしまうことです。
そのため、HSPは刺激に圧倒されて神経が高ぶったり、疲れやすかったりします。
しかし、同じHSPでもどの刺激に対して強く反応するのか、どれくらい過剰に反応するのかはかなり個人差があります。
刺激に圧倒された時は、刺激が少ない場所で心身を回復させる必要があります。
E:情動反応性と共感性の高さ
感情の動きが激しく、共感性が高いことです。
他者の感情から影響を受けやすかったり感情移入しやすかったりします。
怒られている人を見ると自分が怒られているかのように感じたり、悲しい内容の映画や暴力的な映像を見ると鬱な気分になってしまったりします。
ただしこちらも個人差が大きいため、ある出来事に対してみんなが同じように深く共感するわけでも感情が激しく動くわけでもありません。
S:敏感さ
些細なことに気づきやすいことです。
カフェインや添加物に対して敏感に反応したり、チクチクする洋服が気になったりします。
ただし、これらも個人差があったり、カフェインなどは人によって慣れてしまっていることもあります。
些細な刺激に対する敏感さは特殊な感覚能力を備えているわけではなく、脳内で深く刺激を処理することによるものです。
特に視覚からの情報に敏感でよく観察するため、他の人が見逃してしまうようなことにまで気が付いたりします。
HSPは常に神経が高ぶっているわけでも、非HSPより疲れやすいわけでもありません。
DOESの特性ゆえに新しい刺激や過剰な刺激によって神経が高ぶり、刺激が続くと疲れやつらさを感じます。
またアーロン博士はこの特性はヒトだけでなくネコやイヌ、ウマなどの高等動物でも見られると述べています。
環境感受性とは
HSPの特性として、感覚処理感受性の他に『環境感受性』という言葉も使われます。
『環境感受性』は環境からの影響の受けやすさを表す概念です。
・2015年にイギリスのサリー大学教授マイケル・プルースによって提唱された概念
・感覚処理感受性を含む感受性に関する5つの理論を一つに統合したもの
・感受性の違いは約50%が遺伝的要因、残りが環境的要因によるものだと考えられる
環境感受性理論では誰もがある程度環境から影響を受け、影響の受けやすさ別に低感度、中程度、高感度に分類されるという考えです。
そして高感度に該当する人をHSPと呼びます。
分類ごとの割合は、 低感度:約30%、中程度:約40%、高感度:約30%です。
一方、アーロン博士は全人口の15~20%がHSPでそれ以外の約80%が非HSPという考えです。
日本人は感覚処理感受性と関係の深い神経症傾向が高いという研究結果があることから、日本人のHSP割合は高い傾向にあると考えられます。
ちなみに、マイケル・プルース博士らの感受性に関するウェブサイトでは、感度テストを受けることができます。
信憑性の高いHSPテストを受けたい方はアーロン博士もしくはマイケル・プルース博士のテストを参考にすることをおすすめします。
アーロン博士のHSPセルフテストと類似する内容です
「HSP」=「生きづらい人」ではない
HSPを『生きづらい人』と認識している方もいるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
HSPは悪い刺激だけでなく良い刺激からも影響を受けやすいからです。
つまり、悪い環境にいれば感受性が低い人よりつらい思いをすることになり生きづらさを感じるかもしれませんが、良い環境からは多くの恩恵を受けることができます。
逆に感受性が低い人は環境から影響を受けにくいため、良い環境からの恩恵は受けにくいです。
HSPは『HSPではない人たちに比べてポジティブ・ネガティブ両方の出来事や環境から大きな影響を受ける人』です。
HSPの治療法
HSPは病気ではないため治療法はなく、治療するものでもありません。
もしHSPのような傾向があり生きづらさを感じているのであれば、その生きづらさを軽減するためにできることはあります。
- 自分の特徴を理解する
- 自分の扱い方やケア方法を見つける
- 環境を変える
HSPは環境から大きく影響を受けるため、今の自分は育った環境による影響も大きく受けています。
過去(育った環境)を変えることはできませんが、過去の自分に寄り添い傷を癒すことはできます。
また育った環境や現在置かれている環境は人それぞれです。
そして様々なパーソナリティ特性が「人柄」や「その人らしさ」を形成しているため、HSPであってもひとりひとり全く異なります。
そのため、自分なりのケア方法や癒し方を見つけることが大切です。
『環境を変える』と言っても今の生活を全て投げ出す必要はありません。
環境を一気に変えるのではなく、自分をケアしながら変えれるところから少しずつ変えていけば生きづらさは軽減されます。
HSPの特性を知り自分と向き合うことで自分にできることが見えてくるはずです。
HSP特性との向き合い方
私が初めてHSPを知った時、「私はHSPかもしれない!」「自分がHSPかどうか診断してもらいたい!」と胸が高鳴ったことを覚えています。
でもHSPというレッテルに頼ったり、HSPを言い訳に使っても自分の生きづらさや悩みが解消されるわけではありません。
大切なのはHSPの特性を知り、自分の生活に活かすことです。
HSPを知る前の私は出かけることが好きなのにすぐ疲れてしまったり、すでに2回も帯状疱疹を経験しているのは体力がないからだと思い、ジョギングや筋トレに励んでいました。
また、「考え過ぎてしまったり敏感すぎるのはメンタルが弱いせいだ」と自分を責めたり、自分を変えようと必死にもがいていました。
HSPを知った今は、「自分は弱い」と責めるのではなく、「遺伝だから仕方がない」と開き直るのでもなく、敏感さは生まれ持った気質であると理解した上でどうしたら快適に過ごせるかを考えるようになりました。
まだまだ上手くいかないことが多く模索中ではありますが、考え方が変わったおかげで自分に合った対処法が少しずつ分かってきました。
例えば…
- 楽しいことでも予定を詰め過ぎない
- ネガティブな考えや言葉にはなるべく触れないようにする
- イヤホンを持ち歩く
- 「まあいっか」と口に出して言う など
今までの性格や思考を一気に変えるのは難しいですが、HSPを知ったことで自分を責めるだけから自分に寄り添うことの大切さを学びました。
誰もがある程度環境から影響を受けるのであれば、『HSPの特性を知り、自分の生活に活かすこと』はHSPでなくても有効です。
環境感受性理論でいう『高感度寄りの中程度の人』、つまりHSPの一歩手前の人でも極度のネガティブな環境にいたら、ネガティブな環境にいるHSP以上に生きづらさを感じることも十分あり得ます。
感受性が高いのは単なる特徴であって、良い悪いの問題ではないし、HSPは他の人より優れているわけでも劣っているわけでもないという主旨の内容をアーロン博士は述べています。
また、精神は鍛えられること、敏感さを言い訳に引きこもるとどんどん敏感になってしまうことも忘れてはいけません。
HSP特性と向き合うことは、無理強いせず、でも甘やかさずに社会参加する自分なりの方法を見つけるための手段の一つです。
まとめ
- HSPは生まれつき刺激を感じやすい人
- HSPには共通の特徴があるが、ひとりひとり全く違う
- HSPは病気ではないため診断できないし治療するものでもない
- HSPではない人たちに比べてポジティブ・ネガティブ両方の出来事や環境から大きな影響を受ける
- 感受性の高さは生まれ持った気質(遺伝的要因)であるが、約半分は環境的要因によるもの
- 大切なのはHSPだからと開き直るのではなく自分の性質を活かして社会生活に参加すること
感受性が高いのは単なる特徴です。
HSPにとらわれ過ぎず、刺激に対する対処法や自分なりのケア方法を見つけるために自分と向き合うことが大切です。
【参考】
ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ。(エレイン・N・アーロン著)
傷つきやすいのに刺激を求める人たち(トレイシー・クーパー著)
The Highly Sensitive Person
Sensitivity research
Francesca Lionetti, Arthur Aron, Elaine N. Aron, G. Leonard Burns, Jadzia Jagiellowicz & Michael Pluess(2018).Dandelions, tulips and orchids: evidence for the existence of low-sensitive, medium-sensitive and high-sensitive individuals
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